2014/12/01 - LIFESTYLE


本にまつわるエトセトラ / 八本足の蝶


本にまつわるエトセトラ / 八本足の蝶

かつて、これほどまでに印象に残る本があっただろうか。
爽やかな読後感がある訳ではなく、驚くほどの仕掛けがある訳でもない。
涙を流すほどの感動がある訳でもなければ、恋愛をしたくなるような甘い話もまるでない。

それでも、この本に綴られた文章は、私の心に強く突き刺さった。
読了してから十年近く経った今も、私の舌にはしっかりとその「味」が残っている。
その「味」とは、淡々と過ごしていたはずの日常が、突然消えてなくなってしまうことへの恐怖の味である。

この本の著者は、自殺という行為でもって自ら命を絶っている。

「八本足の蝶」は、編集者であった二階堂氏が公開していたブログを一冊の本としてまとめたものである。
2001年6月13日から、この世を去った2003年4月26日までの日々の出来事や思想が、切々と綴られている。

自殺した日に近づくにつれ、その心境は文章にも表れるようになる。
読んでいるこちらの心が痛くなるような文章だ。
自殺直前に書かれた「お別れ」と題した文章を読むと、心がえぐられたような感覚に陥った。

この恐怖の味わいを、私は過去に味わったことがあった。
それは、私が一人暮らしをしていた時のことである。
とある日に、私はゴーヤ・チャンプルーが無性に食べたくなり、自分で作ってみることにした。
にわか仕込みすらしていない私の料理の腕で作られたゴーヤ・チャンプルーは、食材の色よりも焦げ後の黒が目立つような代物であった。
その苦さは、ゴーヤの苦さを凌いだ。
恐怖心を感じるほどの苦さであった。

この本を読んだ後、その時のゴーヤ・チャンプルの味を思い出したのである。


八本足の蝶
著者/二階堂 奥歯
出版社/ポプラ社
発行日/2006/1/23
ISBN 4-591-09090-6


久米成佳
会社勤めをする傍ら、週末ライターとして活動中。
読書と農業と山登りが趣味。
好きな言葉は「晴耕雨読」

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