2015/02/15 - LIFESTYLE


本にまつわるエトセトラ / 阿房列車シリーズ /内田百けん(けん=門がまえに月)


本にまつわるエトセトラ / 阿房列車シリーズ /内田百けん(けん=門がまえに月)

「なんにも用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う」
冒頭から3文目のこの文章に、阿房列車シリーズのあらましが書かれているように思う。
内田百けん(けん=門構えに月)先生が書かれたこのシリーズは、金はないけど旅に出たい先生が知人に借金までして金を工面し、国鉄職員のヒマラヤ山系をお供に連れて、全国の街に汽車に乗って用事のない旅に出るというおはなしである。

先生との出会いは、今から7年くらい前であろうか。
私が書店員として働いていた時期のことである。

その頃に、本に対して情熱を持っている人物に出会った。
その方はNさんという。
Nさんは本に詳しく、センスも良い。
その知識の深さとセンスの良さに、私はたちまちNさんのファンになった。

Nさんに会うと、本の話がしたくなる。
「夏目漱石が好きなんですよ」
聞かれてもいないのに私が自分の趣味を語りだすと、Nさんは「それなら内田百けんを読んでくださいよ」と先生の本を勧めてきた。
先生の名は前から存じてはいて、本も買ってはいたのだが、まだ読んでいない状態であった。
Nさんに勧められ、私は自宅の本棚をひっくり返して先生の本を探し出し、読み出した。

最初は確か随筆集であったと思う。
これが、面白い。
先生の人柄が文章に表れている。
皮肉をたっぷりと込めつつ、ユーモアに溢れた文章を読んで、あっという間に先生の虜になってしまった。
次いで読んだのが、この阿房列車シリーズであった。
「イヤダカラ、イヤダ」
先生の性格を表す言葉として、このような言葉がある。
芸術院会員推薦を辞退した際に、先生が述べた言葉を要約したものだ。

「ナゼイヤカ 気ガ進マナイカラ ナゼ気ガススマナイカ イヤダカラ」

先生のように、こう物事をはっきりと述べられれば、どれほど楽なことか。
気の小さい私にはとても言えない言葉である。
Nさんは、その後勤めていた会社を辞め、出版社を立ち上げた。
「イヤダカラ、イヤダ」
きっとそう言えたのであろう。
私にもいつか、このような言葉を言える日が来るのであろうか。

・第一阿房列車
著者 内田百けん
ISBN 978-4-10-135633-4
版元 新潮社(新潮文庫)


久米成佳
会社勤めをする傍ら、週末ライターとして活動中。
読書と農業と山登りが趣味。
好きな言葉は「晴耕雨読」

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